それでは、企業に何かできるのでしょう。一言で言って、年功序列賃金を弱め、若者の処遇を改善することです。特に子育て中の社員への手当てや福利厚生を充実すべきなのです。彼ら若い世代にはたとえ大企業の社員であっても金銭的な余裕はありませんから、手取りが増えた分は使ってくれますし、休みが増えた分は消費活動にも回してくれます。でもそうはいってもよほど多くの企業が一斉に取り組まない限り効果は出ませんし、取り組んでから効果が出るまでにも少々時間はかかります。世の中全体が動き出せばいいのですが、少数の企業が気づいているだけでは典型的な「鶏が先か卵が先か」の状態を抜け出せません。しかもそのためのイニシャルコストはどうやってカバーするのでしょう。
一義的には、現在進行しつつある団塊の世代の退職によって結構な額が浮いてくる人件費を、なるべく足元の益出しに回さずに(利益は出せば出すほど配当などの形で、あなたの商品を買いもしない高齢富裕層に還元されてしまいます)、若い世代の人件費や福利厚生費の増額に回すということです。先ほど一部上場製造業の決算の合計の数字をお見せしましたが、九六-〇六年度の一〇年間に従業員数が二割減り、少々のベースアップはありますが人件費総額も一四%減っている。これを減らさない、とはいかない場合でも何とか数%の減少に抑えるように努力することが、自助努力の方向なのです。
「給与の増加は生産性の範囲内にとどめておかないと、日本の国際競争力が失われるしインフレになるなどの副作用が生じるぞ」という反論をいただくことがあります。人口の波に関する認識をまったく欠いたままマクロ経済学の一般論だけで考えるとそうなるわけですが、今後五年以内に団塊世代が六五歳を超えて退職して行く日本では、国民の受け取る人件費総額は増加しようがありません。若者一人当たりの給与の増加=国民の受け取る人件費総額の増加とはならないのです。そのような状況下では、「給与の増加は生産性の範囲内にとどめておかないといけない」のではなく「一人当たりの給与を増加させて人件費の総額を維持していかないと、内需が増加せず、生産性も増加しない」わけです。
日本企業は、魅力的な商品の工夫・日本人一人当たりの購入回数の増加・売上の維持上昇・勤労者への配分の増加・各社が同じ行動を取ることによる内需全体の拡大・さらなる売上増加、という好循環を、手の届くところから少しずつ実現していくしかありません。賃上げが先か、売上拡大が先かではありません。賃上げ・売上拡大・賃上げの循環を、まずは小さくてもいいから生み出し、それをゆっくりと大きくする努力、そのためのビジョンが必要なのです。「赤字で苦しんでいるのに、そんなことなどできっこない」と思われますでしょうか。でもそもそも御社が赤字で苦しんでいるのも、日本の企業社会がお互いに若者を低賃金長時間労働で締め上げて、内需を大幅に損なってきたからなのです。さらには今後四半世紀でさらに生産年齢人口が二五%も減っていくわけですから、どこかで現役の給与水準を上げていかなくては、内需=あなたの売上は防衛できません。
どこかで給与減・売上減・給与減という悪循環を断ち切る努力をしない限り、御社は赤字体質から永遠に脱却できないのです。「景気回復」は自助努力なしの他人任せではやって来ません。そこを避け、非正規労働者を使うことでコストダウンし、現役世代向け商品を叩き売ってからくも生き残りを図っている企業は、結局国内市場の果てしない縮小を促進するだけです。「国際競争力維持のために」と唱えつつ、内需縮小の火に油を注いでいる多くの企業の方々。目先の状況だけ考えれば無理はない行動と同情はしつつも、あなたのやっていることは緩慢な自殺にほかなりません。それに気づかないのはビジョン喪失以外の何物でもないのではないでしょうか。個々の企業が自分で気づいて行動を変えない限り、「景気回復」はないのです。