2013年3月30日土曜日

地域の行事のスケジュール

今森光彦さんは、長年にわたって世界中の自然を撮りつづけてきました。現在は生まれ故郷の滋賀県に住み、ナチュラリスト、ネイチャー写真家として、国内ばかりではなく海外でも高く評価されています。今森さんは近くの里山や雑木林をフィールドに、美しい風景と、そこに生きる小さな命の息づかいを丹念にカメラに納めています。テントウ虫の孵化を撮るのに四時間もねばって変人扱いされたり、栗林で数百匹ものコオロギを採集していたところ、栗泥棒と間違えられたこともあるといいます。

川田勘四郎さんは蔵王の樹氷を、もう四十年も撮りつづけています。蔵王に生まれ育った川田さんは高校時代に山岳部に入り、そこでメモ代わりにカメラを持つようになったのが、写真との出会いだったといいます。蔵王の地蔵山頂の西側一帯に広がる樹氷群は、日本海から吹き上げてくる湿気を持った水蒸気がアオモリトドマツにぶつかり、それが氷着してできるめずらしい自然現象で、世界中でも蔵王でしか見られないそうです。

斜面に広がる樹氷は、まるで白い純毛の防寒具をスッポリとかぶった人間群像のようで、実に不思議な光景です。いまはロープウェイを乗り継げば、三十分たらずで標高千六百メートルの樹氷原まで行くことができますが、川田さんが樹氷を撮り始めた四十年前は、雪をかきわけながら二時間半かけて、ようやく辿り着いたといいます。

積雪ニメートル、マイナス十度を超す樹氷原を、スキーをはき、十二キロのカメラ機材を背負って、一日十時間は歩き回るといいます。それでも、「樹氷は気温が低いほどきれいなので、寒いほどうれしい」とおっしゃる。特に魅せられるのが、光が射し始める早朝と陽が沈む直前の斜光線だといいます。樹氷が風を切る音はとても神秘的に聞こえるそうで、写真には写らないが、これからの研究課題にしたいとも言っています。

野鳥の写真を趣味にしている人たちは、近くの川や池に集まってくる水鳥を撮っているうちに病みつきになった、という人が多いようです。何度も通っているうちに、偶然、空飛ぶ宝石カワセミの飛翔を目にし、やがて漁をする場所を発見、そこにカメラを据えて張りつくようになる。釣り人が秘密のポイントを持つのと同じで、自分だけの狩り場を見つけたのです。フィールドを持ちたいけど、どこにあるのか見当がつかないという方は、あなたの住んでいる街をもう一度、よく調べてみてください。全国に誇れる名勝や名刹、家並はなくても、古くから伝わるお祭りや独特の風習、行事が必ずあるはずです。村おこし、街おこしのイベントもあるかもしれません。まずは、そんなところから撮ってみたらいかがでしょう。

地域の行事のスケジュールは、どこの市町村の広報課でも親切に教えてくれるはずです。最寄りの駅でも、さまざまなイベント情報を掲載したパンフレットが手に入るでしょう。わたしが利用している私鉄の鉄道カレンダーには近郊の祭りや行事がもれなく記載されているので、撮影スケジュールをたてるのに重宝しています。「祭り」がテーマなら、初回はうまくいかなくても、年中行事ですから、必ず翌年があります。カメラポジションからレンズや三脚などの装備、フィルムにいたるまで、年を追うごとに工夫が凝らされていくことでしょう。祭りの歴史や意義に詳しくなるにつれ、きっと目のつけどころも変わってくるはずです。