2016年1月8日金曜日

需要主体は多数の消費者で構成される

そのための社会環境整備として「情報公開」が最も重要である。自分で判断するためには十分な情報を必要とするからである。そして、政府の役割として、絶えず、時代にマッチした普遍的なルールを整備することが重要になってくる。

一九九七年も後一月足らずで終わる。そして初校、再校と校正を重ねて二一月になったが、その間にますます「経済学的世界観」が重要になる事態が現実の日本経済に起こった。大手証券会社の自主廃業、有力都市銀行の破綻、企業と総会屋の結びつき、アジアの通貨危機、海外進出を遂げた流通業者の会社更生法の申請などがここ三ヶ月の間にばたばたと起こったことは記憶に新しい。

これらに共通する要因は、繰り返し強調した「経済学的世界観」を軽んじたということにあることはいうまでもないが、同時に「市場」の動向を無視したという点である。まえがきで本書の基本的な考え方は市場中心であるといったが、ここで「市場がなぜ大切なのか」、また「競争がなぜ必要なのか」ということをもう一度確認しよう。結論を先に述べると、競争を通じて人間一人一人の潜在能力が引き出されるからである。

消費財市場を例にとって「市場」の働きを考えてみよう。抽象的な市場概念を避け、できるだけわかりやすい形で現実昧を持った例を提示する。「市場」には需要主体と供給主体が集まる。需要主体は多数の消費者で構成され、供給主体は多数(またば少数)の企業で構成される。個々の消費者は自分の好みに応して質の良い商品やサービスをできるだけ安い価格で購入したいと思い。

個々の企業は需要主体の好みにあった商品やサービスをできるだけ高い価格で供給しようとする。市場で成立する取引量と価格は市場に参加する需要主体のスケジュール(市場需要曲線)と供給主体のスケジュール(市場供給曲線)が交差する点で決まる。いわゆる右下がりの需要曲線と右上がりの供給曲線の交点で市場価格と取引量(需要量でもあり供給量でもある)が決まるということになる。