2015年7月6日月曜日

三つの問題の根幹にあるものは

アメリカは産業構造の転換を世界で最も早く経験している国である。そのため、それが雇用に与える影響もまた大きい。新しい産業が次から次へ生み出されているところはよいが、それが国全体の雇用に対して役立っていないところが問題だ。このところアメリカ企業の株価はかなり戻してきている。しかし人々はあまりハッピーになっていない。企業の利益が向上しても、肝心の生活がよくならなければ意味がない、ということだ。長年、世界をリードしてきたアメリカ。アメリカはいまだすごい国である。しかし一方で、貧富の差、財政赤字、失業率の三つの問題が重くのしかかっている。まずはこの三つの問題について概観してみた。このところアメリカ経済について明るい報道がされることもあるが、まだまだ根本の問題は解決には程遠い。

実はこの三つの問題の中で「貧富の差」の問題がその中心にある。そしてほかの二つの問題も、根っこをたどると貧富の差の問題に行き着くことがわかってくる。現在、アメリカには誰が見ても明らかな貧富の差が存在し、それがさらに悪化している傾向がある。なぜそれが放置されているのか、そしてなぜ我々はそれを悲観的に考えなければならないのか。これについては解読していくことになる。その前に、ヨーロッパの現状について確認しておきたい。ヨーロッパの金融問題はこのところのビッグーニュースとしてマスコミにも大きく取り上げられてきた。しかし、その背景にある事象まで含めて考えないと問題の本質には迫れない。そのところを見ていきたい。

次にヨーロッパの金融危機について、これが起きた背景にはヨーロッパの持つ多様な文化と歴史がある。ドイツを中心とするヨーロッパ北部の国々とギリシャなどの南欧との間には大きな断絶があり、それが今回の問題の遠因となっている。日本では今回のヨーロッパの問題は経済問題とだけとらえがちである。そういう報道のされ方がなされることが多いし、お金の話は人の頭に入りやすいということもある。確かに今の時点ではお金の問題が圧倒的に深刻なことは間違いない。でも、実はこれは単に経済にとどまらず、外交、軍事さらには文化にまで及ぶ壮大な「ヨーロッパ統一への道」の中での一場面と見るべきなのだ。ヨーロッパ統一を進めようとしたところ経済面で大きなひずみが生じ、それがヨーロッパ全体さらには世界全体に波及する大問題になった、ということだ。

ヨーロッパ統一は、ヨーロッパの人々にとって長年の夢だった。その第一の理由は「もう二度と戦争を起こしたくない」というものである。日本人である我々にはなじみにくいことかもしれないが、有史以来ヨーロッパでは各地で戦争を繰り返してきた。「ヨーロッパの歴史は戦争の歴史」とも言えるほど戦争が多発していたのだ。あれだけ狭い土地に多様な民族、言語、文化、宗教が詰め込まれているのだから当然、と言ってよいかもしれない。特に20世紀になって起こった第一次と第二次の二つの世界大戦はヨーロッパの人々の心に深い傷あとを残した。二つの世界大戦はどちらもヨーロッパが起点となり、主戦場となったものだ。

第一次大戦では、フランス、イギリス、イタリアはそれぞれ100万人以上、ドイツは250万人もの犠牲者を出した。第一次大戦のときは日本ではあまり大きな犠牲がなかったので、我々は見過ごしがちであるが、ヨーロッパでは深刻な被害を受けていた。そして第一次大戦後に世界大恐慌が起き、ヨーロッパでは共産主義とファシズムが台頭した当時のヨーロッパで「民主主義が生き残ると考えることは困難だった」とシュロモーアヴィネリ(政治学者)は言う。実際、ファシズムの消滅にはもう一つの大戦が、共産主義の崩壊にはさらに半世紀近くの年月が必要となる。