2015年6月5日金曜日

みなが安心できる暮らしを

日本の金融業は、製造業に比べてこれまで国際競争力に乏しかった。旧大蔵省の護送船団方式で守られていたからである。今後は外資と同じ条件で対等に戦わなければならないが、日本人である限り、すべてに優先して、金のことばかり考えることかはたしてできるのだろうか。とても危ういように思う。融資した企業か赤字で立ち直り不可能とみれば、アメリカの銀行なら、会社をつぶしてできるだけ多く資金を回収しようとする。日本の銀行は、百貨店「そごう」やスーパー「ダイエー」のように、つぶしたらそのもとで生きているたくさんの企業の連鎖倒産が起こることを心配する。なるべくみんなを生かして、被害を最小限にとどめようとする。

アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパン前議長もこの違いをはっきり証言している。彼が当時の宮沢蔵相と日本の銀行の不良債権問題をめぐって会談した際、アメリカの八〇年代の同様な不良債権問題にあたっては、整理した貯蓄金融機関の担保不動産を整理信託公社が安値で売り、不動産市場を動かしたことで問題を早期に解決できたことを宮沢蔵相に話したところ、宮沢蔵相は、それは金融機関の破綻や多くの失業者を生むから日本のやり方ではない、と回答したという。アメリカの銀行は、金のために企業を殺すことをいとわないが、日本の銀行は、会社を殺せない。ちょうど「ペニスの商人」と同じだ。相手を殺してまでも、金を回収するのか、情けをかけるのか。

徳や情を優先する日本人は、同じ土俵に乗ったら勝ち目はない。世界を相手に日本か繁栄するためには、日本の中では日本の価値観を守り、それを堂々と主張し、貫ぎ通す堅固なる思想、信条を掲げ続ける以外に道はないのではなかろうか。さて、ライブドアの堀江元社長は、その後、自社株売却益の不正計上等の罪により逮捕され、二〇〇七年三月には東京地裁より懲役二年六ヵ月の実刑判決が下り、二〇〇八年七月の東京高裁の二審でも実刑判決か言い渡された。道義的な罪から法律上の罪まで突き進んでしまったのは、アメリカ流の株価至上主義にどっぷり浸かってしまったからだろう。また、アメリカ流儀に徹してライブドアに資金を工面したリーマンーブラザーズは、ご存じのとおり、二〇〇八年九月に経営破綻し、今回の世界的金融危機の引き金を引いた。これは偶然の一致ではない。

個人の立場に立った場合、わたしたちのもっとも基本的な望みは満足のゆく暮らしを送ることだろう。貧しくても工夫をすればそれなりに衣食住に満ち足りる生活かできることか基本的欲求であり、それを実現できる環境を用意するのか国家の役目である。しかし、現実には、最近日々の生活に苦労する人々が多くなり、暮らしに不安を覚える人々か増えはじめている。二〇〇八年度の内閣府の世論調査によれば、悩みや不安を感じる人は一九九一年度以降一貫して急増し、二〇〇八年度では70・8%にも達するというひどい状況だ。

悩みは、自分の健康49・O%、家族の健康41・4%と健康に関するものか多いが、いちばんの大きな悩みは、老後の生活の57・7%であり、約六割が不安を覚えている。収入も大きな問題で、現在の収入に32・6%、か、今後の収入には42・4%か不安や悩みをいだいている。残念ながら現在の日本社会においては、国民、か将来に明るい希望をいだき、安心して満足のゆく生活を送る機会かどんどん遠のいている状況なのだ。安心できる生活を送れなくなった国民が増えた大きな理由の一つは、パートや派遣社員などの非正社員が雇用者の三分の一を越えるまでに増加しているからだ。非正社員は、低賃金と契約期間終了後の職の不安に悩まされている。契約期間後の職の保証かなければ、会社に対しても卑屈になり、人間は萎縮してしまう。