2016年3月5日土曜日

「母親は本心では東京にいきたいのが見え見えだった」 

「不動産投資の管理人」から「死ねということか」までの父親のふざけたセリフは、母親と上の妹が両側から糸を引いていわせていた感じもないわけではない。ないチエを絞った駆け引きが完全に裏目に出て、母親はさすがに意気消沈したようだ。団地で果てるのも仕方がないと腹をくくっていた面があったのは父親で、母親は本心では東京にいきたいのが見え見えだった。

それなら素直にいきたいといえばいいのに、そこは駆け引きせずにはいられない生来の浅墓さである。厳しく突っぱねられてふて寝の度合いがひどくなった。

格別の返事もないまましばらくしたら、突然下の妹が、上の妹から、母親が水も喉を通らない危篤状態になったから急いで駆けつけるようにといってきた、と電話してきた。

そんなはずはない。実は私たちは、ときどき大阪の彼らの主治医に連絡をとって実情を聞いていたのである。上の妹のいうことなど到底信用できないからだが、主治医に電話して聞くと、どこにも身体的な問題はありません、という。要するに仮病でふて寝をしているだけのことらしい。

今日も娘さんが、水も喉を通らない状態だから是非に、というので往診してきたが、脱水状態になど全然なっていないし、多少痩せてはいるものの栄養状態もなんの問題もない。娘さんのいないときにちゃんと飲み食いしているに決まっているからご心配はご無用です。こういう。

ただ、主治医は2つのことを付け加えた。1つは、患者の精神状態が不安定だからソフト・トラッキライザーを処方しているが、精神病のクスリなんか呑めるか、と本人もいうし、ご主人も娘さんもそれに同調して困っている。一時が万事で、医者の指示をまったく守らない。

もう1つは、今日も点滴してくれといわれて、そんな必要はない、点滴すべき状態かどうかは私も医者だからわかる、この状態で点滴なんかしたら保険医療費の審査で私が叱られる、といっても娘さんが納得しない。あの3人はすぐパニックを起こすだけでマトモな判断能力がないから、まだ十分に転居が可能ないまのうちに、東京に引き取ったほうがいいのではないか。この2点てある。

どうせその程度のことだろうとは思っていたが、改めて大阪にいって、これでは主治医も困るし、いずれ団地の人たちにも迷惑をかけることになる、と説得して、こちらの示した線に沿って東京に移ることに話をつけた。