2015年3月6日金曜日

変質する日本型雇用慣行

日本型の慣行といっても、それほど確固たるものではないということになると、それは案外、簡単に変化する可能性を秘めていることになる。事実、経済が変わる中で日本型の雇用システムにも変質の動きが現われてきている。

一つは、高齢化である。人口全体が高齢化すれば、当然、労働力も高齢化する。労働省の推計では、労働者全体に占める55歳以上の労働者の比率は、86年には18.4%だったが、2000年には23%となるという。年功序列型賃金体系の下では、高齢者の増加は賃金コストの増加を招く。ポストも不足してくる。高齢者は新しい職種への転換もむずかしい。年齢別の賃金カーブは次第になだらかなものになっていくであろう。

次は、企業経営の「グローバル化」の進展である。日本企業が海外に出ていき、外国企業が日本に進出してくると、必然的に日本的慣行の見直しが始まる。国内と海外で異なるシステムをもつことの矛盾が大きくなるからである。

いい例が、為替・債券のディーラーである。円高以降、東京市場に進出してくる外国銀行が急増し、日本人のディーラーを高給で引き抜き始めた。これに対抗するため、日本の銀行、証券会社もディーラーに限っては年俸制など特別な給与体系を準備しなければならなくなったのである。

技術革新などにより、経済の変化のスピードが速まっていることも雇用慣行を変わる。日本型の雇用慣行の下では、内部労働市場から必要な労働力を調達してきた。しかし、変化のスピードが速くなってくると、企業内に特殊な経験・技術をもつ熟練労働力を抱えておくことがリスキーになってくる。このため、必要な労働力を外部から調達する動きが強まっている。中途採用、派遣労働の利用、パートタイマ-の活用などの動きがそれである。

国民全体の価値観の変化もある。年齢階層別の「生きがい」の所在をみると、中高年層ほど「仕事型」が多く、若年層ほど「家庭・余暇型」が多いという傾向がある。豊かな社会への移行に伴い、国民の価値観は多様化し、仕事よりも余暇を大切にし、企業以外の生活に中心を据えるというのが今後の大きな方向であるように見える。

これまで、日本型雇用の三要素は相互に依存し合いながら存在してきた。企業内の熟練に依存していたからこそ、年功序列型賃金が存在し、企業別組合があった。終身雇用だからこそ、年功序列で若年のうちは相対的に低い賃金でも受け入れられ、企業別の組合が生まれやすかったのである。

こうして三者が密接に絡んでいるということは、なかなか簡単には変化しないということでもあるが、逆に三者を結ぶ糸が解け始めると、全体の絡み合いもまた変わってくる可能性が大きいともいえる。経済構造が激変ずる中で、日本型の雇用慣行は大きく変わろうとしているのである。