2014年9月5日金曜日

大恐慌をもたらした諸悪の根源

日本の自動車メーカーが日米の部品メーカーから平等に仕入れなかったとしても(オハイオ州にあるホンダの工場では、一九八九年一年間に使った部品のうち、アメリカのメーカーから仕入れたのはわずかヱハパーセントにすぎなかった)、あるいは日本の部品メーカーか品薄の部品を日本企業に優先的に納入したとしても(アメリカのエレクトロニクスーメーカーが部品の納入に際して日本企業にくらべて不利な待遇を受けたとして日本の部品メーカーを訴え、アメリカの会計検査院もこれを支持した)、日本企業は差別をしているつもりはない。誰でもやるように、身内を大事にしているだけなのだ。

企業グループの一員となった企業は、事業規模と企業間の協力ではコングロマリッ卜同様の利点を得る一方で、過度の中央集権化というコングロマリットの弱点を回避することができる。系列傘下の企業は互いに刺激しあうと同時に協力しあって成長していくのである。株価を高めるのが目的ならば、企業グループは理屈に合わない。株は買いやすいほど、また買い手が多いほど、株価が上がって売り手(つまり株主)の利益が大きくなるものなのに、企業グループ外の株主にはグループ内の株主と同等の内部情報アクセスが認められないとなれば、企業グループ外から株を取得しようという意欲はそがれてしまうからだ。だが、長期的展望に立った経営、投資を第一に優先する経営をめざすならば、企業グループはまさに理屈に合っているのである。

生産者経済を志向する国では、企業グループを形成しやすい環境になっている。企業の成長を犠牲にしてでも利益をあげて配当を増やせと圧力をかける株主の声は聞こえない。一方、消費者経済を志向する国では、世論は企業グループに冷たく(ランクづけの異なる株主が平等に扱われないから)、国の政策上からも企業グループの形成は難しくなっている。たとえばアメリカでは、日本式の企業グループは反トラスト法に触れるし、ドイツ式のユニバーサルーバンキングも銀行法で禁止されている。

かつては、アメリカにも今日のドイツとそっくりな銀行を中心とする企業グループが存在した。モルガン財閥はUSスチール、インターナショナルーハーペスター、ゼネラルーエレクトリックなど四〇社を傘下におさめていた。そして、モルガンーグループ傘下の企業は、企業グループに属さない企業にくらべて高い利益率をあげていたという記録が残っている。グレートーノーザン鉄道を開設したジェイムズーヒルは、自社のいちばん速い列車を「エンパイアービルダー」と名づけている。

だが、こうした企業グループは、一九三〇年代に法律で禁止された。いわば、大恐慌をもたらした諸悪の根源として矢面に立たされた結果である。大恐慌が起きたときも、スペースシャトルが空中爆発したときも、貯蓄貸付危機に陥った現在も、世間は諸悪の根源をつきとめないと気がすまないものなのだ。で、一九三〇年代にはJ・P・モルガンという人物が諸悪の根源ということになり、モルガンの「罪」を罰するために新たな法律が制定された。今日では、大恐慌をひきおこしたのはモルガン個人の投機的行為ではなく、もっと根本的な要因かあったと考えるのが常識になっているが、当時制定された法律だけはそのまま生き残っている。