2014年4月17日木曜日

消費者の輸入構造の変化

注目すべきことは、一九七五年から一〇年も経った一九八五年において、なおこの構造がほとんど変化していなかったという事実である。いな、多くの産業において輸入依存度はさして上昇をみせず、他方、輸出依存度は上昇したのである。

最大のシェアをもつ機械工業、輸送機器のふたつにおいては、この十〇年間に輸入依存度はそれぞれ十〇・九%から十〇・五%へ、八・六%から十〇・五%へとわずかな増加を示しただけであり、輸出依存度は三四・八%から五一・六%へ、六〇・〇%から八九・二%へと大きく変化しすなわち、この二産業の純輸出依存度(輸出依存度マイナス輸入依存度)には激しい増加が観察される。

「フルセット」型の産業構造には、一九八五年以前においてさしたる変化はなかったのみならず、むしろその傾向は、一九七五年からの十〇年間に強化されたのである。一九八〇年代にしばしば論じられた、日本の貿易収支の構造的黒字不均衡の「構造」を、私は右に述べたスカイラインマップにあらわれる、フルセット型「構造」と理解している。

しかしこの構造は、一九八五年九月以降の「超円高」局面にいたってはじめて本格的に崩れた。その意味で一九八〇年代の後半は画期である。一九八五年以前、二五~二〇%水準を長らく推移してきた日本の総輸入に占める工業製品の比率が、円高後のわずか七年間に二〇%に近い急上昇をみせたことが、その変化を示す端的な証拠であろう。また日本企業の一九八六年以降の「グローバリゼーション」、すなわち地球的規模での事業展開は、これがアウトソーシングを主流としたことによって、企業の投入構造にも大きな変化を与
えた。

所得が一単位増加した場合に誘発される輸入単位数は、輸入の所得弾力性と呼ばれる。一九八六年に資本財、消費財ともに、六前後であったその値は、一九九〇年には前者が二・八、後者が二・三にまで高まった。輸入の所得弾力性のこのような短期間における急上昇は、かつて経験したことのないものであった。この数値の変化のなかに、一九八六年以降の日本の企業や消費者の輸入構造の変化が反映されている。